冷蔵庫を注文する前に、店主は配送条件を確認した。
そこには、「車上渡し」と書かれていた。
文字だけを見ると、少し親切そうだった。
車で運んできて、渡してくれる。
店主は、店舗の入口あたりまで運んでもらえるのだと思った。
念のため意味を調べると、その想像は少し違っていた。
車上渡しとは、基本的にトラックの荷台の上で商品を引き渡す方法。
荷台から下ろす作業や、店内への搬入、設置は購入者側で準備する必要がある。
店主は商品重量を確認した。
約120kg。
画面を見ながら、ゆっくりスマートフォンを置いた。
「一人では、冷蔵庫より先に私が倒れるな」
厨房機器は、宅配便の荷物とは違う。
玄関前にそっと置かれるわけではない。
重量や大きさによっては、複数人の人手や台車、ハンドリフト、フォークリフトなどが必要になる。
トラックが店舗前まで入れるかも確認しなければならない。
店主は、内装工事を手伝ってくれた佐藤さんに相談した。
「冷蔵庫が届くんですけど、車上渡しらしくて」
佐藤さんは、商品の寸法と重量、配送車両、店舗前の道路を確認した。
当日は二人ほど手伝いを増やし、冷蔵庫を運べる台車も用意することになった。
床や入口に傷がつかないよう、養生材も準備した。
店主は友人にも連絡した。
「開店前に、ちょっとだけ力を貸してほしい」
返ってきたのは、
「ちょっとだけで120kg?」
という返事だった。
それでも友人は、当日の朝に来てくれることになった。
準備を進めるうちに、店主の不安は少しずつ小さくなった。
車上渡しという言葉を初めて見たときは、難しい配送方法に思えた。
けれど、必要な人員と道具を事前にそろえれば、落ち着いて受け取れる。
分からない言葉は、怖い。
意味が分かれば、準備に変わる。
店主はノートに書いた。
「商品を選ぶだけでなく、受け取る方法まで確認する」
冷蔵庫の到着日は、開店の十日前に決まった。
カレンダーに大きな丸を付けた。
空っぽの厨房に、最初の一台が入る日だった。