ようこそ 楽天市場へ

飲食店開業物語 第5章 車上渡しという言葉

公開日:2026/07/10 更新日:2026/07/10

第5章 車上渡しという言葉

冷蔵庫を注文する前に、店主は配送条件を確認した。 そこには、「車上渡し」と書かれていた。 文字だけを見ると、少し親切そうだった。 車で運んできて、渡してくれる。 店主は、店舗の入口あたりまで運んでもらえるのだと思った。 念のため意味を調べると、その想像は少し違っていた。 車上渡しとは、基本的にトラックの荷台の上で商品を引き渡す方法。 荷台から下ろす作業や、店内への搬入、設置は購入者側で準備する必要がある。 店主は商品重量を確認した。 約120kg。 画面を見ながら、ゆっくりスマートフォンを置いた。 「一人では、冷蔵庫より先に私が倒れるな」 厨房機器は、宅配便の荷物とは違う。 玄関前にそっと置かれるわけではない。 重量や大きさによっては、複数人の人手や台車、ハンドリフト、フォークリフトなどが必要になる。 トラックが店舗前まで入れるかも確認しなければならない。 店主は、内装工事を手伝ってくれた佐藤さんに相談した。 「冷蔵庫が届くんですけど、車上渡しらしくて」 佐藤さんは、商品の寸法と重量、配送車両、店舗前の道路を確認した。 当日は二人ほど手伝いを増やし、冷蔵庫を運べる台車も用意することになった。 床や入口に傷がつかないよう、養生材も準備した。 店主は友人にも連絡した。 「開店前に、ちょっとだけ力を貸してほしい」 返ってきたのは、 「ちょっとだけで120kg?」 という返事だった。 それでも友人は、当日の朝に来てくれることになった。 準備を進めるうちに、店主の不安は少しずつ小さくなった。 車上渡しという言葉を初めて見たときは、難しい配送方法に思えた。 けれど、必要な人員と道具を事前にそろえれば、落ち着いて受け取れる。 分からない言葉は、怖い。 意味が分かれば、準備に変わる。 店主はノートに書いた。 「商品を選ぶだけでなく、受け取る方法まで確認する」 冷蔵庫の到着日は、開店の十日前に決まった。 カレンダーに大きな丸を付けた。 空っぽの厨房に、最初の一台が入る日だった。