店主は、二台の冷蔵庫で迷っていた。
一台は幅1200mm。
もう一台は幅1500mm。
入口の問題を解決する方法も見つかり、どちらも搬入できる可能性があった。
価格差も、どうにか予算内。
それなら容量が大きい方が安心だろう。
食材はたくさん入る。
仕入れの回数も減らせる。
大は小を兼ねる。
店主は幅1500mmの冷蔵庫に気持ちが傾いていた。
しかし、厨房の床にサイズを示すテープを貼ってみると、印象が変わった。
テープの内側が、冷蔵庫になる場所。
実物はまだないのに、その四角形だけで厨房が急に狭くなった。
店主は調理する場面を想像しながら歩いてみた。
冷蔵庫から食材を取る。
作業台へ移動する。
シンクで洗う。
鍋を火にかける。
大きな冷蔵庫を置くと、通路が細くなる。
扉を開ければ、後ろを人が通れない。
さらに作業台を置くと、体を横向きにしなければ移動できない場所も出てきた。
「食材は入るけど、人が入らないな」
店主は一人で笑った。
大きな冷蔵庫は便利だ。
ただし、厨房で人が動ける場合に限る。
店主はもう一度、幅1200mmの位置にテープを貼り直した。
通路に余裕ができた。
冷蔵庫の扉を開ける動作をしても、後ろを通れる。
空いた場所には、小さな作業台を置くこともできそうだった。
容量は少し減る。
そのため、仕入れの量や回数は考えなければならない。
けれど、毎日の作業がしやすい。
料理を作る人が無理なく動ける。
店主は、大きい冷蔵庫をやめることにした。
最初は「大きい方を諦めた」と思っていた。
しかし図面を描き直してみると、違った。
諦めたのではない。
店に合う方を選んだのだ。
厨房機器は、単体の性能だけで決めるものではない。
置いたあと、扉を開けられるか。
人がすれ違えるか。
掃除ができるか。
ほかの機器を置けるか。
毎日使う場所だからこそ、数センチの余裕が大きな違いになる。
店主はノートに書いた。
「一番大きい機器ではなく、一番使いやすい機器を選ぶ」
選んだのは、幅1200mmの中古冷蔵庫。
少し傷はある。
けれど、店主が作ろうとしている小さな店には、ちょうどよかった。