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飲食店開業物語 第4章 大きい冷蔵庫をやめた理由

公開日:2026/07/10 更新日:2026/07/10

第4章 大きい冷蔵庫をやめた理由

店主は、二台の冷蔵庫で迷っていた。 一台は幅1200mm。 もう一台は幅1500mm。 入口の問題を解決する方法も見つかり、どちらも搬入できる可能性があった。 価格差も、どうにか予算内。 それなら容量が大きい方が安心だろう。 食材はたくさん入る。 仕入れの回数も減らせる。 大は小を兼ねる。 店主は幅1500mmの冷蔵庫に気持ちが傾いていた。 しかし、厨房の床にサイズを示すテープを貼ってみると、印象が変わった。 テープの内側が、冷蔵庫になる場所。 実物はまだないのに、その四角形だけで厨房が急に狭くなった。 店主は調理する場面を想像しながら歩いてみた。 冷蔵庫から食材を取る。 作業台へ移動する。 シンクで洗う。 鍋を火にかける。 大きな冷蔵庫を置くと、通路が細くなる。 扉を開ければ、後ろを人が通れない。 さらに作業台を置くと、体を横向きにしなければ移動できない場所も出てきた。 「食材は入るけど、人が入らないな」 店主は一人で笑った。 大きな冷蔵庫は便利だ。 ただし、厨房で人が動ける場合に限る。 店主はもう一度、幅1200mmの位置にテープを貼り直した。 通路に余裕ができた。 冷蔵庫の扉を開ける動作をしても、後ろを通れる。 空いた場所には、小さな作業台を置くこともできそうだった。 容量は少し減る。 そのため、仕入れの量や回数は考えなければならない。 けれど、毎日の作業がしやすい。 料理を作る人が無理なく動ける。 店主は、大きい冷蔵庫をやめることにした。 最初は「大きい方を諦めた」と思っていた。 しかし図面を描き直してみると、違った。 諦めたのではない。 店に合う方を選んだのだ。 厨房機器は、単体の性能だけで決めるものではない。 置いたあと、扉を開けられるか。 人がすれ違えるか。 掃除ができるか。 ほかの機器を置けるか。 毎日使う場所だからこそ、数センチの余裕が大きな違いになる。 店主はノートに書いた。 「一番大きい機器ではなく、一番使いやすい機器を選ぶ」 選んだのは、幅1200mmの中古冷蔵庫。 少し傷はある。 けれど、店主が作ろうとしている小さな店には、ちょうどよかった。