飲食店開業物語 第3章 100Vなら使えると思っていた
公開日:2026/07/10 更新日:2026/07/10冷蔵庫のサイズ問題を乗り越えた店主は、少しだけ自信をつけていた。
幅も奥行も高さも確認した。
入口も通る。
厨房にも置ける。
今度こそ大丈夫。
そう思いながら商品情報を読み進めると、「電源」という欄があった。
単相100V。
「100Vなら、普通のコンセントで使えるやつよね」
店主は厨房の壁を見た。
そこにはコンセントがある。
形も見慣れたものだった。
安心して画面を閉じようとしたところで、別の商品に「三相200V」と書かれているのが目に入った。
さらに別の商品には「単相200V」。
100V。
単相200V。
三相200V。
数字は似ている。
名前も似ている。
けれど、どうやら全部同じではない。
店主の頭の中で、せっかく整理した厨房がもう一度空っぽになった。
「電気って、刺さればいいんじゃないの?」
残念ながら、厨房機器の世界はそこまで簡単ではなかった。
店主は電気工事を担当してくれた業者へ連絡した。
「100Vの商品なら、このコンセントで使えますか?」
業者は、すぐに「使えます」とは言わなかった。
商品の消費電力。
プラグの形。
ブレーカーの容量。
同じ回路でほかの機器を使うか。
確認することがあるという。
100Vと書かれていても、使う機器によっては専用回路を用意した方がよい場合がある。
単相200Vや三相200Vの商品なら、対応する電源設備が必要になる。
コンセントの形が似ていても、電圧や電気の種類が違えば、そのまま使えるとは限らない。
「コンセントがあるから大丈夫、ではないんですね」
店主が言うと、業者は笑った。
「厨房機器では、購入前に確認してくれた方が安心ですよ」
店主は、冷蔵庫の商品ページをもう一度開いた。
今回は単相100V。
消費電力とプラグの形を伝え、設置予定の場所も確認してもらった。
結果として、予定していた場所で使えることが分かった。
それでも店主は、以前のように「100Vだから大丈夫」とは言わなくなった。
代わりに、
「100Vだけど、設備も確認したから大丈夫」
と言うようになった。
少し長くなったが、その分だけ安心できた。
店主はノートに書いた。
「電源は、数字だけで決めない」
その下に、小さく付け足した。
「分からないときは、分かったふりをしない」
厨房機器の電源は、料理の味のように勘で調整できない。
購入前に商品仕様を確認し、必要に応じて電気工事業者へ相談する。
それだけで、商品が届いた日に「使えない」という困りごとを減らせる。
開店まで、あと二十一日。
冷蔵庫は、少しずつ店に近づいていた。