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飲食店開業物語 第2章 冷蔵庫が入口を通らない

公開日:2026/07/10 更新日:2026/07/10

第2章 冷蔵庫が入口を通らない

店主が最初に見つけた冷蔵庫は、理想に近かった。 容量は十分。 価格も予算内。 見た目も悪くない。 幅は1500mm。 厨房の壁際には、1600mmほどの空間がある。 「これなら置ける」 店主は久しぶりに、自信を持って言った。 購入ボタンを押す直前、商品ページに書かれていた注意書きが目に入った。 「設置場所および搬入経路をご確認ください」 搬入経路。 店主は画面を見ながら、少し考えた。 設置場所は測った。 厨房までの通路も、たぶん大丈夫だろう。 入口も、見た感じは広い。 見た感じは広い。 その言葉が、なぜか急に信用できなくなった。 店主はメジャーを取り出し、店舗の入口へ向かった。 左右の壁にメジャーを当てる。 表示された数字は、1450mmだった。 もう一度測る。 やはり1450mm。 冷蔵庫の幅は1500mm。 商品は置ける。 ただし、店の中に入れば。 店主は入口に立ち、しばらく何も言わなかった。 わずか50mm。 たった5cm。 しかし、入口は「少しくらい頑張れば通れるでしょう」と応援してくれる場所ではない。 冷蔵庫も、到着してから少し細くなってくれることはない。 「危なかった……」 購入前でよかった。 店主は厨房までの道を、最初から測り直した。 店舗入口。 店内の通路。 厨房入口。 曲がり角。 設置場所。 さらに、扉や取っ手を外した場合の寸法も確認した。 本体サイズだけでなく、梱包された状態ではさらに大きくなる可能性もある。 床に段差がないか。 天井や照明に当たらないか。 搬入するときに本体を回転できる場所があるか。 測り始めると、確認する場所は思った以上に多かった。 厨房機器を買うときは、置く場所だけ測ればよいと思っていた。 しかし本当に大切なのは、商品が店舗の外から設置場所まで無事にたどり着けることだった。 店主はノートに、新しい項目を書き足した。 「設置寸法より、まず搬入寸法」 最初に選んだ冷蔵庫は諦めることになった。
少し残念だったが、商品が届いたあとで入口の前に立ち尽くすより、ずっとよかった。 数日後、店主は幅1200mmの冷蔵庫を見つけた。 容量は少し小さくなる。 けれど、入口を通り、厨房内でも余裕を持って設置できる。 店主は商品画面とメジャーを交互に見た。 今度は、入口も通路も曲がり角も確認済みだった。 「これなら、本当に置ける」 同じ言葉だったが、今度は根拠があった。 厨房機器選びの最初の先生は、詳しい専門家でも分厚い説明書でもなかった。 店の入口だった。