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第10話:補完療法入門|運動療法

公開日:2026/02/21 更新日:2026/03/02

■はじめに

これまでの第1話から第9話までは、癌告知後の混乱、情報整理、食事、睡眠、体のだるさなど、癌治療と暮らしを支える土台についてお伝えしてきました。 今回からは少し視点を変えて、科学的な整理が進んでいる「補完療法」を、テーマごとに紹介していきます。 第10話のテーマは、運動療法です。 ここでいう補完療法は、手術・抗がん剤治療・放射線治療などの標準治療の代わりではありません。 あくまで、治療中や治療後の生活を支え、日々を少しでも過ごしやすくするための方法として考えていただければと思います。 この記事は、“健康を設計する”店長 掛江(一級建築士/健康管理士一般指導員/腸内環境管理士)が、腸活を軸に、フコイダンをはじめ健康に関する情報をわかりやすく整理してお届けしています。

■運動療法とは?

「運動療法」と聞くと、 「つらいのに運動なんて無理」 「ジムに行く話?」 と感じる方も多いと思います。 でも実際は、そうではありません。 がん治療の補完療法としての運動療法は、その人の体調や体力に合わせて、無理のない範囲で体を動かすことを大切にしています。 激しい運動を目指すものではなく、まずは安全に、そして少しずつ、続けることが基本です。

■なぜ今、運動療法なのか?

運動療法が注目されている理由の一つは、補完療法の中でも比較的、研究の蓄積が進んでいるからです。 特に、治療中・治療後に多くの方が悩みやすい ・体のだるさ ・疲れやすさ ・気分の落ち込み ・眠りの質の低下 ・体力の低下 といった課題に対して、運動が支えになる可能性があることが、少しずつ整理されてきています。 ASCO(米国臨床腫瘍学会)とSIO※(米国統合腫瘍学会)の2024年ガイドライン更新では、2013〜2023年のランダム化比較試験(RCT)を系統的に評価し、113件のRCTをもとに、がん関連疲労(CRF)に対する運動を重要な選択肢の一つとして整理しています。 大切なのは、「運動でがんを治す」という考え方ではなく、 治療を続けやすくするための土台づくりとして捉えることです。 ※SIOは、Society for Integrative Oncologyの略称です。 科学的根拠(エビデンス)に基づいた補完療法(ヨガ、鍼、マッサージ、食事、運動など)を、通常のがん治療(手術、放射線、抗がん剤など)と統合して行う「統合腫瘍学」の発展を目指す国際的な学会です。 SIOは、ASCO(米国臨床腫瘍学会)などと連携し、がん患者さんのQOL(生活の質)向上を目的とした診療ガイドラインを作成・発表しています。

■どんなことが期待できるの?

個人差はありますが、運動療法には次のようなことが期待されています。 ・疲労感の軽減(特に、休んでも抜けにくい「だるさ」への対策の一つ) ・体力・筋力の維持 ・日常生活の動きやすさの維持 ・気分の安定 ・睡眠リズムのサポート ・生活の質(QOL)の維持 ASCO/SIOの2024年ガイドライン更新でも、運動はがん関連疲労の改善に役立つものとして推奨されています。 治療中は、どうしても「休むこと」が中心になりやすい時期があります。 もちろん休息は大切ですが、体調に合わせて少し動くことで、かえって体が整いやすくなる方もいます。

■エビデンスの具体例(臨床試験)

近年は、QOL(生活の質)や疲労だけでなく、より長期の臨床アウトカムをみた試験も出てきています。 2025年のNEJM(New England Journal of Medicine)には、結腸がん術後(補助化学療法後)の患者さんを対象にした第III相ランダム化比較試験(CHALLENGE試験)が報告されました。 55施設、889人が参加し、3年間の構造化された運動プログラム群と、健康教育資料のみの群が比較されています。 この試験では、運動プログラム群は、教育資料のみの群に比べて、 再発・新たながん・死亡の複合リスクが低かったと報告されています(HR 0.72)※。 また、死亡リスクでも良好な結果(HR 0.63)※が示されました。 ただし、これは特定のがん種(結腸がん)・病期・治療後の条件で行われた試験です。 すべてのがんにそのまま当てはめるのではなく、主治医と相談しながら考えることが大切です。 ※HRって何?(かんたん解説) ここで出てきた HR(ハザード比) は、臨床試験でよく使われる指標です。 一定期間の中で、「その出来事が起こる起こりやすさ」を比べる数字、と考えるとわかりやすいです。 ・HR = 1.00:差がない ・HR < 1.00:特定行動を実施した群のほうが有利 ・HR > 1.00:特定行動を実施した群のほうが不利 たとえば、上記のHR 0.72 は、運動プログラムを実施した方が再発・死亡リスクが約28%低かった(1.00より0.28小さい)という意味です。 あくまで「時間を含めた比較」の指標で、単純な人数差だけを表す数字ではありません。

■日本での位置づけは?

日本でも、がんサバイバーに対する運動・身体活動の位置づけは整理が進んでいます。 2025年には、日本の専門家らによる「がんサバイバーの運動・身体活動ガイドライン」が公表され、年齢層別(18〜64歳、65歳以上)に、個々の能力や健康状態に合わせた運動・身体活動の重要性が示されました。 これは、日本におけるエビデンスベースの指針づくりとして大きな一歩です。 また、日本のランダム化比較試験(RCT)の例として、乳がん患者さんを対象にした Setouchi Breast Project-10 では、運動プログラム・教育プログラム・通常ケアが比較され、身体活動量の主要評価項目では有意差が出なかった一方、体重・BMI・体脂肪率などで改善が示された項目もありました。 一方で、同プロジェクトの二次解析(乳がん関連リンパ浮腫の予防)では、介入による有意差が認められなかった結果も報告されています。 この点は、「運動療法は何にでも同じように効く」と考えず、目的ごとにエビデンスを見ることが大切だと教えてくれます。

■激しい運動は必要?

ここはとても大切なポイントです。 運動療法は、 「頑張ること」より「続けること」 が重要です。 たとえば、次のような小さな動きからでも十分にスタートになります。 ・家の中を数分歩く。 ・近所を5〜10分だけ散歩する。 ・椅子からゆっくり立つ・座るを数回する。 ・かかとの上げ下げ。 ・肩や首をやさしく動かす。 ・無理のないストレッチ。 「これくらいで意味があるのかな」と感じるくらいで、最初はちょうどよいこともあります。 日本のガイドラインでも、個々の能力や健康状態に合わせた身体活動が重視されています。

■運動療法の考え方

続けやすくするために、運動療法は大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。 1)歩く運動 散歩などの軽い有酸素運動です。 体力の土台づくりに役立ちやすく、気分転換にもなります。 2)筋力を維持する運動 椅子の立ち座りや軽い筋トレなどです。 筋力低下を防ぎ、日常の動作を続けやすくする助けになります。 3)整える運動 ストレッチや、呼吸を意識したゆるやかな動きです。 体のこわばりや緊張をやわらげるのに役立つことがあります。 この3つを、体調に合わせて少しずつ組み合わせるようなイメージです。 ●無理なく始めるコツ 運動療法を続けるコツは、最初から完璧を目指さないことです。 おすすめの始め方 ・まずは5分以内から ・体調のよい日にやりすぎない ・つらい日は量を減らしてOK ・「ゼロにしない」を目標にする ・できたことを小さく記録する たとえば、 朝:家の中を1〜3分歩く 昼:5分だけ歩く 夜:軽いストレッチを少し このくらいでも、「今日もできた」という積み重ねになります。 治療中は体調に波があるのが自然です。 波がある前提で組み立てることが、長く続けるコツです。

■安全に行うための健康チェック

運動療法は有用な補完療法ですが、健康チェックがとても大切です。 次のような場合は、自己判断で進めず、主治医や医療者に相談してください。 ・発熱がある ・強い息切れ、胸の痛みがある ・めまいが強い ・強い貧血がある ・骨転移がある(運動内容の調整が必要なことがあります) ・手術直後 ・しびれが強く、転倒しやすい ・体調の急な悪化がある 健康チェックがあってこその運動療法です。 無理をしないことは、後ろ向きではなく、続けるための大事な工夫です。 ●できる範囲で大丈夫 治療中は、「前のように動けない自分」に落ち込む日もあると思います。 でも今は、1分でも、数歩でも、体を少し動かせたなら、それは立派な一歩です。 その一歩が明日につながっていきます。 ご家族であれば、「一緒に少し歩く」「声をかける」だけでも、大きな支えになります。

■まとめ

運動療法は、がん治療の代わりになるものではありません。 しかし、治療中・治療後の暮らしを支える補完療法の一つとして、取り入れる価値がある方法です。 大切なのは、 ・無理をしないこと。 ・安全を確認すること。 ・続けられる形にすること。 一日一日の地道な取組が、いつしか明日の健康に結びつきます。 元気な時の「過去の自分」と比べるのはやめましょう。 過去の自分も、今の自分も、自分は自分です。 いろんな経験をしている自分なんです。 だから自分を責めることなく、頑張っている体をいたわりつつ、 きっと明るくなる明日に向かって一歩一歩進みましょう。 次回は、同じく補完療法として注目されている 「マインドフルネス・心理介入(心を整える方法)」 について、わかりやすく整理していきます。 【コラムニスト紹介】 “健康を設計する”くらしいきいき楽天市場店 店長 掛江 一級建築士/健康管理士一般指導員/腸内環境管理士 建築で培った「構造化・優先順位付け・継続設計」の考え方を、腸活を中心とした日々の健康習慣に落とし込み、続けやすい形で提案しています。 2002年ごろ、妻が子宮頸がん(初期)の診断を受け、がんセンターで手術を経験しました。 がんは本人だけでなく家族の心にも大きな影響を与えることを、当事者家族として実感しました。 この経験をきっかけに、妻が飲んでいたフコイダンの取り扱いを始め、2003年から関連商品に携わってきました。 現在は、腸内環境を軸に、がんを取り巻く情報(予防の考え方、検診、治療と生活)を一次情報にあたりながら、根拠と限界を明確にして解説しています。 私たちは、商品をすすめる前に、まず生活を整えることを大切にしています。 不安なときは、食事・睡眠・運動の基本と、主治医との連携を土台に、管理栄養士と一緒に「続けられる形」を考えていきましょう。 【免責】 ※本コラムは一般的な情報提供を目的としており、診断・治療を代替するものではありません。体調に不安がある場合や治療中の方は、必ず主治医を含む医療機関にご相談ください。

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更新日:10/13(10/06〜10/12集計)