お香の買付けでネパールへ|2012年 ナガルコットで見たヒマラヤ
公開日:2026/09/08 更新日:2026/09/082012年。
東日本大震災から1年ほどが経ち 少しずつ日常も落ち着いてきた頃の話です。
当時 私は「香りの専門店 HAPPY HOUR」で販売するお香やチベット仏教関連の商品を仕入れるため ネパールを訪れていました。
今回はそんなネパール買付けの途中で訪れたナガルコットのお話です。
今から10年以上前の旅行記なので 道路や宿泊施設などは現在と大きく変わっていると思います。
それでもあの朝に見たヒマラヤの景色は今でも鮮明に憶えています。
●ネパールのお香を求めて寺院を巡る
当時 ネパール在住の日本人の方にアテンドしていただきながら カチュガキリンやシェチェン コパンなどの寺院を巡っていました。
目的はお香やチベット仏教関連商品の仕入れです。
日本で商品として並んでいるお香だけを見ていると なかなか想像することはありません。
しかし実際にネパールへ行ってみると お香と仏教文化との距離がとても近いことを感じます。
寺院を訪ねながらお香を探し 実際に手に取って仕入れる。
今考えてみても貴重な経験でした。
●せっかくネパールまで来たのだからヒマラヤを見たい
そんな仕入れの日程の中で
「せっかくネパールまで来たのだからヒマラヤを見てみたい」
という話になりました。
そこで寺院を回った日の夕方から車で向かったのがナガルコットです。
ナガルコットはカトマンズ盆地の東側にある山間の町で ヒマラヤ山脈を望む場所として知られています。
今は道路事情もかなり変わっているかもしれません。
しかし2012年当時 私たちが通った道はなかなか強烈でした。
●「これ落ちたら死ぬな」と思いながら山を登る
舗装された道ではありません。
砂利の山道をひたすら車で登っていきます。
しかもかなり険しい。
そしてガードレールすらありません。
車の窓から外を見ると崖。
「これ落ちたら死ぬな……」
本気でそんなことを考えながら車に揺られていました。
そんな山道を走ること約2時間。
すっかり夜になった頃 日本人が経営していた「雲海」というゲストハウスへ到着しました。
●ダルバートとビールでナガルコットの夜
到着した時にはすでに真っ暗です。
夕食にいただいたのはネパールの定番料理ダルバート。
そして軽くビール。
ただし夜更かしはできません。
ナガルコットまで来た最大の目的は翌朝にありました。
ヒマラヤを見るためです。
このゲストハウスからはマナスル アンナプルナ ガネーシュ・ヒマールなどの山々を望むことができるとのことでした。
もちろん山なので必ず見えるわけではありません。
天候や季節によっては雲に覆われてしまいます。
私が訪れた11月は比較的空気が澄み 雲の張り出しも少ないベストシーズンとのことで
「おそらく見られるでしょう」
という話でした。
期待しながら早めに寝ることにします。
ところがその前に試練が待っていました。
●バンコクから来た身体にネパールの寒さ
この時はバンコクから飛行機でネパールへ入っていました。
年中ほぼ暑いバンコクから約3時間半。
そこから一気にネパールの11月です。
しかもナガルコットは山の上。
夜から早朝にかけては暖房が欲しくなるほど寒く バンコクとは20℃以上の温度差があったのではないかと思います。
そして今でも忘れられないのがシャワーです。
冷水しか出ません。
ただでさえ寒い山の夜。
そこで冷水シャワーです。
「これ心臓発作を起こすんじゃないか?」
そんなことを思いながら浴びた記憶があります。
さっきまで飲んでいたビールの酔いなど一瞬でどこかへ消えました。
寒い。
本当に寒い。
ブルブル震えながらベッドへ潜り込みました。
●翌朝 ヒマラヤが姿を現す
目が覚めると外はまだ薄暗い時間でした。
山の中はひんやりとした澄み切った空気に包まれています。
そして驚くほど静かです。
何とも言えない静寂。
そこに少し荘厳な雰囲気まで感じます。
しばらくすると空が少しずつ明るくなってきました。
昇ってくる太陽が ヒマラヤの山々によってデコボコになった水平線をくっきりと照らし出していきます。
とても神秘的でした。
前日の冷水シャワーの寒さなど忘れてしまうほど 気持ちの良い朝です。
●朝日に照らされたヒマラヤ山脈
太陽が昇りきると景色はさらに変わりました。
快晴の空の下にヒマラヤ山脈の雄大な姿が現れます。
マナスル アンナプルナ ガネーシュ・ヒマールなど 遠くまで続いていく山々。
前日の夜に到着した時には真っ暗で何も見えませんでした。
その暗闇の向こう側に これほど巨大な景色が広がっていたのか。
ただ山を眺めているだけなのですが いつまでも見ていられるような景色でした。
写真で見るヒマラヤとはやはり違います。
冷たい空気。
山の静けさ。
そして目の前に広がるヒマラヤ。
そのすべてを含めてナガルコットの朝だったのだと思います。
●お香の仕事をしていなければ見ることのなかった景色
今ではネパールのお香を商品として扱うことは日常になりました。
しかし一つのお香の向こう側には その国の文化や宗教 そこで暮らしている人たちがいます。
実際にネパールへ行き 寺院を巡り 現地でお香を仕入れたことで 日本で商品を見ているだけでは分からないことをたくさん経験しました。
そしてその買付けがなければ ナガルコットまで行くこともなかったかもしれません。
寺院を巡ってお香を仕入れ
ガードレールもない山道を車で登り
ダルバートを食べてビールを飲み
冷水シャワーに震え
翌朝 ヒマラヤを見る。
こうして書いてみると なかなか濃い旅です。
でも10年以上経った今でもよく憶えています。
●ネパールで知った不思議な縁
そしてこの旅には もう一つ忘れられない話があります。
当時アテンドしていただいた日本人の方とは その後もネパールを訪れるたびに何度かお会いしました。
何度目かにお会いした時だったと思います。
お互いの昔の話をしているうちに驚くことが分かりました。
なんと同じ小学校の出身だったのです。
日本で知り合ったわけではありません。
遠く離れたネパールで お香の買付けを通じて知り合った日本人です。
その方は中学校へ上がるタイミングで埼玉へ引っ越されたそうで それまでお互いのことを知りませんでした。
同じ小学校に通っていた二人が何十年も経ってネパールで出会う。
そんな偶然があるんだなぁと思ったものです。
お香の仕事をしていなければネパールへ行くこともなかったかもしれません。
ネパールへ行かなければ当然その方と出会うこともありませんでした。
今振り返ると本当に不思議な縁だったと思います。
●2020年 もう会えない人に
残念ながらその方は2020年に亡くなられました。
もうネパールへ行ってもお会いすることはできません。
だからなのか ナガルコットへ向かった山道やゲストハウスで過ごした夜 翌朝に見たヒマラヤの景色は以前とは少し違った意味を持つようになりました。
一緒に寺院を巡ったこと。
お香を仕入れたこと。
車でナガルコットへ向かったこと。
そしてあの朝にヒマラヤを見たこと。
今ではすべてが大切な旅の記憶です。
●お香からつながったネパールという場所
当店では長年 インドやネパール 台湾 中国など様々な国のお香を扱ってきました。
お香という小さな商品をきっかけに 実際にその国を訪れ 人に会い その土地の空気を感じる機会にも恵まれました。
ナガルコットで見たヒマラヤも そこで出会った人との不思議な縁も
そんな「お香からつながったもの」の一つです。
仕事でネパールへ行かなければ おそらく経験することのなかった旅でした。
あれから10年以上。
もう会えない人もいます。
それでもあの場所は今もあります。
まだ薄暗い山の中で少しずつ空が明るくなり 朝日に照らされてヒマラヤの山々が姿を現していく。
あの光景をもう一度見てみたい。
そして今度ナガルコットを訪れた時には きっと2012年のあの旅を思い出すと思います。
生きているうちに もう一度。
また訪れたい場所です。