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天候不順で果物はどう変わる?

公開日:2026/01/26 更新日:2026/01/31
山形elabで、山形県内の果物の集荷を担当しているムックです。 生産者さんの畑を回り、果実の状態を見ながら、 最適なタイミングで集荷・出荷を行っています。 近年どこでも問題になる天候不順。天候不順と果物の関係は、かなり繊細で、一言でいえば「少しの狂いが大きな差になる世界」です。果物は動くことができず、その場でひたすら天気に付き合うしかありませんので、気温、雨、日照時間、風などのバランスが崩れると、生育の進み方から味、見た目、収穫量、市場価格に至るまで、連鎖的に影響が出てきます。 まず大きいのは気温の問題です。春先に急に暖かくなると、果樹は「もう春だ」と判断して芽を動かし、通常より早く花芽が膨らんだり開花したりします。その後、寒の戻りや遅霜が来ると、咲いたばかりの花や小さな幼果がダメージを受け、結実がうまくいかなくなります。一度の霜でも、園地全体の収量に大きく響くことがあり、特定の年に「不作」と言われる背景には、こうした現象が隠れていることが多いです。逆に夏の高温や猛暑は、果物にとっても過酷で、一定温度を超えると光合成の効率が下がる一方で、呼吸が盛んになり、せっかく蓄えた糖を消費してしまいます。その結果、思ったほど糖度が上がらなかったり、酸味が抜けて締まりのない味になったりすることがあります。さらに、強い日射と高温が重なると、果実の表面に日焼け障害が出て、色が褐変したり、見た目の品質が低下したりします。
次に、長雨や日照不足の影響があります。果物の甘さや香りの形成には光が重要ですので、曇りや雨の日が続くと、樹が光合成によってつくり出せる糖の量が不足します。その結果、見た目の大きさはそこそこでも、食べてみると甘さが物足りない、酸味だけが立つ、全体的に「ぼんやりした味」と感じられる果実が増えます。収穫前の時期に長雨や大雨が続くと、果実中の水分比率が上がり、糖度が相対的に下がって水っぽく感じられる場合もあります。また、高い湿度は病原菌にとって好条件であり、黒星病や灰色かび病などの病害が発生しやすくなります。病斑がついた果実は、見た目の問題だけでなく、腐敗が進みやすく、出荷できる量が減るという形で影響が表れます。 一方で、雨が少なすぎる、あるいは極端な形でゲリラ豪雨が降るといった天候の乱れも、果物にとって大きなストレスになります。干ばつ気味の状態では、樹は自らを守るために成長を抑え、果実を十分に太らせることが難しくなります。その結果、小玉傾向になったり、表面にひび割れが生じたり、養分の吸収が偏ったりします。逆に短時間の激しい豪雨は、畑の土壌を流したり、根が水浸しになって酸欠を起こしたりして、根そのものを傷める原因になります。水分が一気に入り過ぎることで果実が裂けてしまう「裂果」が起きる品目もあり、あと少しで収穫という段階で商品にならなくなることも少なくありません。台風などで強風が加われば、枝折れや落果が一気に進み、わずかな時間で収量が大きく落ちることもあります。
こうした天候不順は、単に「実の数」を減らすだけではなく、「質」にも複雑な影響を及ぼします。味の面では、糖と酸のバランスが崩れやすくなり、同じ産地、同じ品種でも、年によって印象がかなり違うことがあります。色づきの面でも、日照不足によりリンゴやブドウなどの着色が進みにくく、赤や紫が薄くなったり、全体がくすんだ色合いになったりします。逆に強すぎる日射と高温が続くと、今度は表面に日焼け斑が生じ、色むらや褐色斑点として現れます。見た目の規格から外れる果実が増えることで、「訳あり」や「規格外」として扱われる割合が高まり、市場に出る果物の構成も変わっていきます。 病害虫の面では、気温の変化、とくに暖冬や高温傾向が大きく関わります。冬の冷え込みが弱い年には、本来なら寒さで数が減るはずの病原菌や害虫が生き残りやすくなり、春以降の発生が増える傾向があります。また、高温の年は害虫の世代交代のサイクルが速まり、ハダニやアブラムシなどの個体数が増えやすくなります。葉や果実が虫害や病害で傷むと、樹全体の光合成能力も低下し、結果として果実の肥大や糖度にも影響してきます。果物の側から見れば、「ちゃんと寒いときには寒くしてほしい」という、少しわがままにも聞こえる本音があるような状態です。
このような畑での変化は、最終的には市場価格や流通量、私たちの食卓の光景に反映されます。不作の年には、全体の出荷量が減り、とくに見た目がよく、味も安定している上位等級の果実は相場が高くなりやすくなります。一方で、形が不揃いであったり、色づきが弱かったりする果実が増え、これらは比較的安価な「訳あり品」として売り場に並ぶことがあります。また、開花や成熟のタイミングがずれることで、出荷のピークが例年より前後にずれ、「いつもの時期にいつもの量が並ばない」という状況が生じます。例えば、クリスマス向けのイチゴが高温の影響で思うように揃わない年がある、というのは象徴的な例です。 生産者は、もちろんこれらをただ受け入れているわけではなく、さまざまな工夫でリスクを減らそうとしています。高温や日焼けに対しては、遮光ネットを張って直射日光を和らげたり、樹の上部と内部で光の回り方が偏り過ぎないように剪定方法を工夫したりします。霜のリスクが高い地域では、防霜ファンを回して空気をかき混ぜたり、スプリンクラーで散水して温度低下を緩和したりする対策がとられます。多雨への備えとしては、排水性を高めるために畝を高くしたり、土壌改良を行ったりして、根が長時間水に浸からないようにします。病害虫については、発生しやすい気象条件を予測しつつ、防除のタイミングを前倒ししたり、樹勢を整えて病気に強い状態を維持しようとする取り組みも進んでいます。 とはいえ、どれだけ対策をしても、天候そのものを人間がコントロールすることはできませんので、ある程度の年ごとの「当たり外れ」は避けられません。消費者の側としては、価格の変動や見た目のばらつきの背景に、そうした天候の影響があることを少し意識しておくと、「今年はちょっと高い」「色が薄い」と感じたときの受け止め方も、少し穏やかになるかもしれません。見た目に少し傷や色むらのある果物を選ぶときに、「今年の天気の中で、よくここまで育ったね」と心の中でひとこと労うくらいの距離感で付き合うのが、天候不順の時代の果物との現実的な付き合い方と言えるのではないかと思います。