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昆布おじさんの独り言【おでんでは、素晴らしい「だし」を作ってはいけない】

公開日:2026/09/04 更新日:2026/10/11

おでんほど難しくて簡単な和食はない

おでんほど難しくて、 簡単な和食はありません。 そして、おでんほど複雑で、 単純な和食もありません。 なんや、どっちやねん(笑) 最近、おでんのことを考えれば考えるほど、僕はそう思うようになりました。 というのも、この秋の「楽天食いしんぼう祭 in 大阪」で、僕は「昆布屋のおでん屋」をやることになったからです。 昆布屋がおでんを作る。 そう聞けば、 「さぞかし、ええ昆布をたっぷり使って、ものすごいだしを作るのやろう」 と思われるかもしれません。 ところが、僕の考えは反対です。 おでんでは、素晴らしい「だし」を作ってはいけない。

おでんの主役は、だしではない

だしだけ飲んで、 「うまい!」 となりすぎたら、あかんのと違うか。 おでんの主役は、だしではありません。 大根には大根の味があります。 こんにゃくにはこんにゃくの味があります。 玉子にも、厚揚げにも、それぞれの持ち味があります。 その一つ一つの味を邪魔せず、後ろから支えてやる。 それが、おでんの「だし」の仕事やと思うのです。 僕が考えている基本はとてもシンプルです。 昆布だし、日本酒、薄口しょうゆ。 あれもこれも入れない。 昆布屋やからといって、昆布を前へ前へ出さない。 実は銀座のおでんの名店でも、非常にシンプルな考え方でだしを作っておられます。 これがおもしろい。 昆布は、存在感を出せばええというものではないのですね。

75歳、もう一度だしを勉強する

実は僕がおでんに関わるのは、今回が初めてではありません。 高校のアメリカンフットボール部時代の先輩の息子さんが、ITエンジニアからおでん屋さんを始めることになり、その開店を少しお手伝いしたことがあります。 それが今では大きく成長し、国内だけでなく海外にも進出されています。 昔は僕がお手伝いする側でした。 ところが今度は、僕が教えてもらう番です。 75歳、昆布屋を55年やってきました。 それでも、まだまだ分からんことがあります。 むしろ長く昆布を扱ってきたからこそ、 「昆布は、どこまで仕事をしたらええんやろう?」 と考えるようになりました。 濃ければええのか。 うま味が強ければええのか。 高級な昆布を使えば、それで美味しくなるのか。 どうも、そんな単純な話ではなさそうです。

その後ろに昆布がいる

主役にならない。 けれど、いないと何か物足りない。 大根を食べたら、大根がうまい。 玉子を食べたら、玉子がうまい。 そして最後に、 「なんや、このおでん、ええ味やなぁ」 と思ってもらえる。 その後ろに昆布がいる。 そんなおでんを作ってみたいと思っています。 この秋は大鍋の前に立って、もう一度「だし」を勉強します。 昆布屋のおでん屋。 さて、どんな味になりますやら。 たぶん一番楽しみにしているのは、僕自身です。

昆布おじさん 喜多條 清光