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北海道白糠町
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【生産者紹介:北海道ハルカ カルㇱの森】自然の力を信じる。人と風土が育むキクラゲ
北海道白糠町
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【生産者紹介:北海道ハルカ カルㇱの森】自然の力を信じる。人と風土が育むキクラゲ
【生産者紹介:北海道ハルカ カルㇱの森】自然の力を信じる。人と風土が育むキクラゲ
公開日:2026/08/21 更新日:2026/08/21
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北海道・白糠町の山あい。初夏のこの日は、青々と草が茂る大地に爽やかな風が吹き、真っ青な空には白い雲が浮かんでいました。そこに建つ一軒のビニールハウス。中には、菌床が整然とならび、キクラゲが芽を出しています。 ここは、農園「北海道ハルカ カルㇱの森」。「カルㇱ」は、アイヌ語で「きのこ」を意味します。「カルㇱの森」を運営する黒田 朋枝(くろだともえ)さんが、案内をしてくれました。
カルㇱの森を運営する、黒田朋枝さん。
”このハウスでは、燃料を燃やして暖房をつけるなど、人工的な空調設備を一切つかっていません。白糠の自然環境を生かしながら、きのこが本来持つ生命力を信じて育てているんです。私たちは、きのこが育つお手伝いをしているだけ。”
自動車部品会社が始めた、異業種への挑戦
2022年からキクラゲの栽培をスタート。
カルㇱの森の母体は、釧路市に本社を置く自動車部品会社、株式会社クロダ部品商工です。農業とは全くの異業種が、なぜキクラゲの栽培を手掛けることになったのでしょうか。 ”自動車業界の将来を考えると、新しい事業を模索しなければならない。 そんな思いがあって、代表取締役の夫と一緒に10年以上前から、新規事業について検討していたんです。” 転機となったのは、2019年。ある経営者向けの情報誌に掲載されていた、岐阜県のきのこメーカーの記事でした。そこには、自然環境を生かしながら育てるきのこ栽培の様子が紹介されていました。 ”キクラゲも作っている、と書いてあったんです。当時、国内流通するキクラゲのほとんどは中国産。国産はごくわずかでした。これは面白いかもしれない、そう感じました。” 朋枝さんは自ら岐阜県まで足を運び、現地の栽培方法を見学します。そこで目にしたのは、温度管理された密閉施設ではありませんでした。 ハウスは大きく開放され、風が通り抜ける中で、きのこ自身の力を引き出す栽培方法が行われていました。燃料を使わず、コストを抑えながら環境にも優しい「自然開放農法」に心を動かされ、自分も挑戦してみたい、と思ったそうです。
生まれ育った、白糠の実家で新たな一歩
約900本並ぶキクラゲの菌床。
約900本並ぶキクラゲの菌床。
約900本並ぶキクラゲの菌床。
カルㇱの森がある場所は、朋枝さんの実家。かつて酪農を営んでいた広い土地です。離農から数十年経っていましたが、土地はそのまま残っていました。 ”キクラゲは高温多湿な環境を好むので、北海道の気候では栽培は難しいのではと言われました。でも、夫の力を借りて手作りでハウスを建て、岐阜から取り寄せた菌床を並べて栽培実験をスタートしました。やってみたら、予想以上によく育ったのです。” 太平洋に面し、背後には広大な山林を有する白糠町は、同じ町内でも海沿いと山あいでは天気が異なります。霧が多く曇りがちな海沿いに比べ、山あいは晴れる日が多く日照時間も十分。さらに夏でも冷涼な風が吹き抜けます。その気候と風土がキクラゲ栽培に味方をしました。 2022年。130本の菌床から、カルㇱの森はスタートしました。その後毎年規模を拡大し、2026年現在では900本規模にまでになりました。
自然が育て、人は支える。
キクラゲを一年中収穫するためには、暖房や空調設備を使い、ハウス内の温度湿度を一定に保つ必要があります。しかし、カルㇱの森では燃料を燃やす暖房を使いません。そのため、収穫は一年に一度、6月から10月までです。 ”一番おいしくて生命力のある、本来の“旬”を大切にしたいと思っています。” そう朋枝さんは語ります。 カルㇱの森のハウスは、必要に応じて壁面が大きく開放できる構造です。 その日の気温や日照時間に合わせ、窓の開閉により風を通し、自然の湿度を利用してキクラゲが生育しやすい環境を保ちます。暑すぎないか、湿度は足りているのか、毎日変わる自然環境に合わせて、細やかな調整が必要です。 ”自然界のきのこは、人間が温度を管理しているわけではありませんよね。 私たちも、自然がもたらす太陽の光や湿度、風など環境を整えてあげるだけ。きのこが元気に育つお手伝いをしているだけです。” 自然がきのこを育て、人はそれを支える。そんな考え方です。大量生産とは真逆とも言える栽培方法ですが、その考え方には一本の芯が通っています。
収穫したキクラゲは肉厚で大人の手のひらほどの大きさ
菌床から萌芽し、スクスクと生育するキクラゲ。
収穫したキクラゲは肉厚で大人の手のひらほどの大きさ
菌床から萌芽し、スクスクと生育するキクラゲ。
収穫したキクラゲは肉厚で大人の手のひらほどの大きさ
手間を惜しまないから、生まれる品質
乾燥の工程も放ったらかしにはできません。
大きく生育したキクラゲだけを選別して収穫。
肉厚でプリンプリンとした弾力があります。
乾燥用のハウス。太陽光をたっぷり浴び自然の風で乾燥させます。
乾燥の工程も放ったらかしにはできません。
大きく生育したキクラゲだけを選別して収穫。
肉厚でプリンプリンとした弾力があります。
乾燥用のハウス。太陽光をたっぷり浴び自然の風で乾燥させます。
乾燥の工程も放ったらかしにはできません。
カルㇱの森では、収穫も効率優先ではありません。人工的な栽培を行う大規模農園では、区画ごとに一斉に収穫することも珍しくありませんが、ここでは一本一本の菌床を見ながら、大きく育ったものだけを一つ一つ丁寧に手で摘み取ります。 900本の菌床を見回りながら、毎朝収穫。真夏のハウス内は汗が噴き出す暑さですが、それでも「今日はここ」「明日はこの列」と、一つずつ確認していきます。 水を含みずっしりと重い菌床を一本ずつ手に取り、大きく生育したキクラゲだけを選別して収穫。 ”収穫が一番大変ですね。” そう笑う朋枝さんですが、その手間があるからこそ、大きく肉厚なキクラゲが育ちます。収穫したキクラゲは、旬の時期は生で出荷しています。朝収穫した生キクラゲが、その日の午前中には町内の道の駅の農産コーナーに並びます。 また、同時に乾燥キクラゲも製造します。まずは風通しの良い乾燥用ハウスの中で、2〜3日間しっかり天日干し。太陽の光をたっぷり浴びせてから、最後の仕上げだけ乾燥機を使うといいます。 ”天日に当てることで、ビタミンDなど栄養価が増えます。大事な工程なんですよ。” 効率だけを考えれば、すべて機械乾燥の方が手間はかからず早いですが、効率よりも自然の力を生かすことを選び、栄養価など目に見えない品質にもこだわる。そこにもカルㇱの森らしい、ものづくりの姿勢が表れていました。
届け続けるために、新しい価値をつくる
道の駅しらぬか恋問館で販売されている乾燥キクラゲ。
カルㇱの森のキクラゲは、「道の駅しらぬか恋問館」の直売所で買うことができます。地元の人たちにその美味しさが知れ渡り、季節限定の生キクラゲは出荷するとすぐに売り切れてしまうそう。乾燥キクラゲは年間を通して販売しており、白糠町のお土産としても人気です。2025年秋からは、白糠町のふるさと納税返礼品にも加わりました。 ”全国的に、国産キクラゲを作る農家も増えてきていますし、そんなに申し込みは来ないのかなと思っていたんです。” あまり期待していなかったというふるさと納税ですが、寄付は少しずつ確実に増えていきました。その積み重ねが、生産者にとっては何よりも嬉しいといいます。 新しい商品の開発にも力を入れています。その一つが、キクラゲの粉末「キクラゲパウダー」です。乾燥キクラゲを細かく粉砕した粉末は、味噌汁やスープ、ご飯を炊くときなど、毎日の料理に手軽に使えます。 ”小さじ一杯で、キクラゲ5枚分くらいの栄養が摂れるんですよ。” キクラゲは食物繊維やビタミンDが豊富な食材として知られています。歯ごたえを楽しみたい人には生や乾燥キクラゲを。毎日の健康習慣として取り入れたい人には粉末を。そんなふうに、それぞれの暮らし方に合わせた提案を始めています。
私たちは、お手伝いしているだけ
品質にこだわり栽培されるキクラゲ。
取材中、朋枝さんが何度も口にした言葉があります。 ”私たちは、お手伝いしているだけなんです。” その一言には、カルㇱの森のものづくりに対する考え方が凝縮されていました。きのこが本来持つ、自ら育つ力を信じること。人ができるのは、水を与え、風を通し、その力が十分に発揮できるよう環境を整えることだけです。 ”自然が主役で、人はそれを支える。” 効率を追い求めれば、もっと別の方法もあります。それでも、自然の力を信じ、一つひとつ手をかける栽培を選び続ける。だからこそ、カルㇱの森のキクラゲには、大量生産では生み出せないおいしさと品質が宿っています。
白糠町から育つ、新しい農業のかたち
カルㇱの森の挑戦はまだ始まったばかりです。将来的には、自分たちで菌床づくりまで手がけることも夢の一つだと話してくれました。岐阜県から仕入れている有機菌床を、いつかこの白糠町で、自分たちの手でつくる。その挑戦が実現すれば、生産者からさらに一歩進み、北海道の新たなきのこづくりへとつながっていくかもしれません。 異業種から農業への参入。決して簡単な挑戦ではなかったはずです。それでも、自分たちの手で試し、考え、少しずつ積み重ねてきた四年間。その姿勢は、食べた人を虜にする、確かな品質の商品へと反映されています。 白糠町の風を受け、太陽の光を浴びながら育つカルㇱの森のキクラゲ。そこには、この土地だからこそ生まれるおいしさと、未来へ続く新しい農業への挑戦がありました。