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母乳育児を希望するママの願いを叶えるためにパパができること

公開日:2026/09/24 更新日:2026/09/30
「母乳で育てたい」という願いを持ちながら、思うようにいかずに一人で悩むママは少なくありません。 産後の体と心は想像以上に消耗していて、相談できる場所も以前より見つけにくくなっています。 そんなとき、いちばん近くにいるパパに何ができるのでしょうか。 母乳育児を望むご家庭に向けて、専門家の立場からお話しします。
育児の世界では「母乳もミルクも素晴らしい授乳法」という考え方が定着し、産科や地域の保健現場でも、母親を追い詰めない配慮が広がっています。これは、「母乳神話」に苦しんできた母親たちのプレッシャーを減らすうえで、大切な変化です。 しかし、統計には、厳しい現実が現れています。2023年に行われた調査では、約95%の妊婦が「母乳育児」を希望しているにもかかわらず、生後1か月児の完全母乳育児率は34.5%にまで落ち込んでいたのです。コロナ禍前までは、半数を超えていた割合が、感染の蔓延によって20ポイントも減少し、今も回復の兆しは見えていません。 なぜそうなったのでしょう。コロナの感染対策のために敷かれた隔離とサポートの断絶が母乳育児を成功に導くのを妨げたのです。コロナの心配がなくなれば、元に戻りそうですが、簡単には戻れません。以前は助産師などから対面で得ていた情報の入手先は、今やSNSが主流となり、ネット上で母乳育児に対するネガティブ情報が広がっています。そして、母乳育児支援を受けることが難しくなったことで、ミルク育児を選択する人が増えました。産院での手厚いケアに代わる地域のサポート体制が、需要に追い付いていない現状もあります。 「母乳でもミルクでも選べる社会」は良いことですが、社会的なサポート体制の縮小が重なった結果、今「母乳で育てたい」という希望を持つママほど、周囲に相談もできず、支援を受けにくい状況にあります。 この記事は、かつての母乳神話を押し付けるものではありません。社会のサポートが薄れ、「母乳育児をしたい」ママが厳しい現実に直面している今。大切な妻の願いをかなえるために、最も身近な存在である夫ができることを一緒に考えてみましょう。

ママの体に備わる母乳の力

34.5%という母乳育児率の数字。その背景には、「自分は母乳が出ない」「母乳で育てる能力がない」と一人で悩むママたちが多く存在します。実際の相談現場でも、母乳が十分に出ているのに、「おっぱいが張らない」とか「赤ちゃんがよく泣く」といった理由から、母乳不足だと思い込んでいる方が大部分を占めています。こうした不安は、助産師に相談し、乳房とメンタルのケアを受けることで、きっと解消に向かうはずです。 ここでは、乳房の発達や形状のために、母乳は難しいと思っておられたお二人の実例をもとに、母親のからだに備わっている母乳を出す力についてお話しましょう。

自信をなくしていたママの話

10年間にわたる不妊と、乳房がとても小さい。この2つの理由から、「自分には、女性として、また母親としての適性がないのではないか」と悩む女性から相談を受けたことがあります。不妊の悩みをお聞きした後、実際に拝見すると確かに乳房は小さい状態でした。 そこで私は、「母乳をつくる工場(乳腺)は妊娠中に作られます。そして、赤ちゃんが生まれた後に繰り返し吸ってもらうことで母乳が出るようになります。もし量が足りなければ回数を増やせばよいのですよ」とお伝えしました。 幸いなことに女性は間もなく妊娠されました。自信をもって授乳を続けた結果、見事「完全母乳」で育て上げることができたのです。この事例は、母乳育児を成功させる上で、自分と赤ちゃんの力を信じることの大切さを教えてくれます。そこでは、プロからの前向きな言葉(成功の暗示)も、力になったかもしれません。

5か月から飲み始めた子の話

産後数か月から、2週間に一度おっぱいサロンに顔を出してくれるママがいました。目的は母乳育児ではなく、他のママや支援者との交流の場として通っていたのです。変化が訪れたのは、お子さんが5か月を過ぎたころでした。「今からでも母乳を飲ませることはできますか」。相談のきっかけは、サロンで他のお友達が授乳している様子を見て、赤ちゃん自身が、おっぱいに興味を示したことでした。もともとミルク育児だったのは、乳首が大きく直接授乳が難しかったという背景があったからです。 私たちは、「大丈夫。今からでも間に合います。欲しがるときに、いつでも吸わせてあげてください。まずはミルクを続けながら、焦らず離乳食へと移行していきましょう」「大丈夫」というおまじないを込めて乳房マッサージを施しました。親子の想いが通じたのか、お子さんはなんと3歳まで母乳を飲むほどの「おっぱい子(ママは、おっぱい星人と呼んでいました)」へと成長したのです。生後5か月経ってからのスタートでしたが、赤ちゃんの豊かな感受性と、ママの「飲ませてあげたい」という気持ちと前向きな気持ちがあれば、いつでも奇跡は起こせるのだと実感させられた事例です。 2つの事例は、ひとつの大切な真実を伝えています。それは、ママの「飲ませたい」という願い、赤ちゃんの「飲みたい」という本能、そして周囲の温かいサポートが響きあえば、人間の身体はいつでも、どんな状態からでもそれに応えてくれるということです。ただし、身体が持つ潜在能力を引き出すためには、プロによる適切な伴走が必要です。興味深いことに医療的な処置以上に、母乳育児に対する楽観的で前向きな“おまじない(暗示)”が、ママと赤ちゃんの可能性を開くカギだったと、今改めて実感しています。 社会環境の変化もあり、孤立しがちな現代の母乳育児。ママが一人で悩み、専門家のサポートを探して足を運ぶのは、心身ともに大きな負担が伴います。そこで力になるのが、パパという最高のパートナーの存在です。妻が安心して相談できる場所を見つけられるよう、共にリサーチする。サロンに通ったり訪問ケアを受けたりする時間を確保するために家事や育児を分担する。そうしたパパの具体的な動きと、「一番近くで支える」という優しい姿勢が、ママの心をどれほど救うか分かりません。母乳育児の可能性を広げ、成功へと導く真のキーパーソンは、他ならぬパパなのです。

時期別・パパの応援プラン

具体的にパパはどう伴走すれば良いのでしょうか。時期に沿って見ていきましょう。

夜間授乳を1回だけ「バトンタッチ」

退院後の1週間:夜中の授乳の「1回バトンタッチ」がママを救う!最初の山場は、退院後の1週間です。この時期のママは、急激なホルモン変化、体の痛み、ひどい睡眠不足で満身創痍(まんしんそうい)です。「母乳を軌道に乗せるためには、夜間も2〜3時間おきに必ず吸わせなければならない」と思われていますが、一人頑張りすぎると、産後うつや育児ノイローゼの引き金になるかもしれません。 ここでパパができる作戦が、「夜間の授乳を1回代行する」ことです。日中に搾っておいた母乳か、ミルクを夜中に1回だけパパが用意して赤ちゃんに飲ませ、ゲップをさせ、寝かしつけます。「1回でも授乳を休んだら、母乳が出なくなる?」と心配する必要はありません。24時間のうち、たった1回(3〜4時間)まとまった睡眠をとるだけでも脳と身体の疲労をリセットすることができます。ストレスが減ることで、翌朝からの母乳分泌を促すホルモンがスムーズに出るようになります。まず3日休ませてみましょう。ママ自身も回復を実感できるでしょう。 静まり返った真夜中に我が子を抱き、一人世話をする。この経験は、パパと子どもとの絆を深める機会になります。

産後1か月からパパは家庭の名シェフ!

産後1か月を過ぎると里帰り出産から自宅に戻ったり、手伝いに来ていた親族が帰ったりします。ここからは、パパが家事をリードし、特にママと赤ちゃんの命や元気の源となる「ご飯」を担当する絶好のチャンスです。 育児のタスクは、どちらが行っても構いませんが、「おっぱいを出すこと」だけは、どれほど技術が進化してもパパが代わることはできません。だからこそ、ママが安心して授乳に集中できるように、パパが生命の源である「食」の一部を担ってはいかがでしょう。

母乳は最初の家庭の味

母乳の原料は、ママが毎日口にする食事です。ママの食べたものによって母乳の栄養が変わるだけでなく、味も変化します。赤ちゃんはママのおっぱいを通じて、我が家の味や食文化を五感で学んでいます。ここでパパが、ご飯を担当し、栄養バランスの整った美味しい食事をママに提供することは、多くのメリットがあります。 【ママと赤ちゃんの毎日の食に貢献できる】 パパは、「自分が作った食事が、妻を通じて我が子の血となり肉となり、味覚を作っている」という喜びを感じることができます。お子さんの哺乳意欲が高まったとしたら、パパの得意料理の影響かもしれません。 【パパ自身の健康スキルが身につく】 家族のために栄養や効率的な料理のコツを学ぶことは、パパ自身の将来の健康を守る財産になります。 【ワンオペ家事を防ぐ】 この役割は産後にいきなり始めても上手くいきません。妻が妊娠中からキッチンに立ち、料理の段取りを身につけておくことで、産後の最も大変な時期に、ママに無理をさせずお互いを支え合えるチームになれます。

まとめ

出産という命がけの大仕事を経て、心身の痛みや激しい疲労を抱えるママを支えること。それは、単なる「家事手伝い」ではありません。パパの伴走が、95%の母乳育児の希望が35%の現実に替わるギャップを埋める一助になります。 コロナ禍以降の崩壊の危機にある母乳育児支援体制のなかでは、大変なこともあるでしょう。「母乳で育てたい」という妻の願いを、二人三脚のプロジェクトにしてください。しかし、すべてを夫婦だけで抱え込まず、気軽に、遠慮なく、助産師などの専門家に相談してください。 母乳育児に対する社会の空気をも変えていくその第一歩は、他でもない、あなたの家庭から始まります。がんばるママとそれを支えるパパ。私たちはあなたたちの挑戦を心から応援しています。