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1分間に30尾。土佐の漁師が守り続ける、消えゆく漁法

公開日:2026/08/14 更新日:2026/10/12
黒潮に乗って日本近海を回遊する鰹。その群れを追って船を出す、南国土佐伝統の勇壮な漁。 それが「鰹の一本釣り漁」です。 一本釣り漁船の中でも、50~180トンの中型船は台湾沖から三陸沖までの遠洋・近海へと鰹を追って出かけていきます。乗組員は15~25人。いちいち母港に戻るわけにはいかないため、漁の状況や前日のセリ値を勘定しながら、その都度水揚げ港を選んで入港することになります。主な水揚げ港は宮城県・気仙沼港や、千葉県・勝浦港、銚子港、静岡県・焼津港、鹿児島県・枕崎港など。高知の一本釣り漁師はそれだけ他県との交流が深いということを意味しており、様々な地域での経済活動や人的交流の役割をも担っています。 5~19トンの小型船は、4~11人の乗組員で土佐沖を舞台に漁を行います。そのため土佐沖に鰹がやって来る5、6月と、11月頃が鰹一本釣り漁の最盛期。夜の10時頃に港を出航し、夜明けごろに漁場に到着します。一本釣り漁のポイントは、黒潮の流れの中ではなく、ないだ海と黒潮本流の境目。こうした潮目にはプランクトンが豊富で、イワシ類などの小魚も多く、それを狙って鰹も集まって来るのです。 一本釣り漁は、鰹の群れ、いわゆる「ナブラ」探しから始まります。中・大型船ともなればソナーで探ることもできますが、小型船は己の目が頼り。鰹の餌を横取りしようとして上空を舞っている海鳥の群れや、鰹がその下に集まっていることも多い流木などの漂流物、さらに鰹の群れがそこに付いていることも多いジンベエザメやイワシクジラなど、ナブラ探しの目印となるものを追い求めます。もちろんこれらが必ずしも鰹のナブラの存在を示しているとは限りません。しかし海鳥の微妙な飛び方の違いで、鰹の群れかどうかを判断するのが熟練漁師の目。鍛え抜かれた漁師の勘が発揮される時です。
鰹の群れを確認すると、慎重に船をそちらへと近づけ、イワシなどの生き餌を巻いて鰹を呼び込みます。そして散水装置で勢いよく放水。イワシが暴れているように見せかけて鰹を興奮状態にし、そこを一気に疑似針の付いた竿で釣り上げるのです。一本釣りに使う針はカエシがなく、空中での微妙な操作によって、鰹に触れることなく針を外すことができるようになっています。釣り上げられた鰹が豪快に宙を舞い船へと投げ込まれる様は、まさに豪快の一言。ベテランの漁師は1分間に30尾をも釣り上げることもあるとか。「鰹の一本釣り漁ほど面白いものはない」―鰹に魅せられ、一本釣りに魅せられた南国土佐のいごっそうたちは、今日も大海原を舞台に熱き戦いを繰り広げています。

鰹を美しく、新鮮に保つために

また、網の中で魚体が擦れ合い損傷を起こしやすい巻網漁に比べ、一本釣りは鰹を美しく丁寧に釣り上げる方法でもあります。さらに生きたまま急速冷凍することにより鮮度を保持。新鮮な一本釣り鰹は刺身やたたきに重用されてきました。一方巻網漁では一度に大量の鰹を扱わなくてはならないため、冷凍処理するのに時間がかかったり、冷凍ムラが起きたりという面も。巻網で獲られた鰹は缶詰や鰹節などの加工用に多く用いられてきましたが、今では刺身などとしても市場に出回るようになっています。

限りある資源を大切に【海に優しい一本釣】

次々と豪快に鰹を釣り上げる光景が印象的な一本釣り漁ですが、大漁の時でも釣り上げる鰹の数はナブラの1%ほど。一度に大量の鰹を“一網打尽”にする巻き網漁と比べ、一本釣りは、海に優しい、鰹に優しい漁法と言えるのです。古くから鰹と馴染みがあり、鰹を愛する土佐だからこそ、限りある資源を大切にした一本釣りを、人々は守り続けているのです。 鰹の一本釣り漁は現在、大きな危機を迎えています。ここ数年で日本近海の一本釣り鰹の漁獲高は激減。特にフィリピン、台湾を経て日本の太平洋側を北上する「黒潮ルート」の鰹の減少はデータからも明らかになっています。また市場価値の高い3~4kgの鰹が減少し、1~2kgと小型の鰹ばかりになっていることも一本釣り漁師たちを悩ませている原因の一つ。こうした小型の鰹は加工用となるため、価値も下がってしまうのです。古くから大海原を舞台に活躍してきた多くの鰹一本釣り漁師たちが今、廃業の危機を迎えています。 こうした状況を引き起こしていると考えられるのが、今様々なところで問題になっている地球温暖化。暖かい海を好み、季節的な回遊を行う鰹。これまでその北限は宮城県気仙沼付近と考えられていましたが、現在鰹が津軽海峡を抜けて日本海側へ回っているといった異常な情報まで耳にするようになりました。 そしてもう一つの原因と言われているのが、巻網漁による鰹の乱獲です。日本の巻網船はおよそ100~200トン、網の長さは2000m×200m。外国船ともなれば、その何倍もの大きさがあります。こうした巻網船は大量の鰹を文字通り一網打尽にするのみならず、鰹の産卵漁場さえも操業域に含んでしまうのです。そして巻網で得た鰹は、一本釣りのものよりも安く市場に出回るため、消費者にも受け入れられやすくなります。こうした状況の中で、多くの一本釣り漁師が廃業の危機と直面しているという現実。もちろん効率的な漁を行うためには、巻網漁は必要です。しかし乱獲が目的であってはなりません。とは言え鰹は全世界の熱帯・温帯水域に広く分布する魚であり、日本一国の取り決めによってこの問題が解決できるわけではありません。 しかし古代から鰹を食し、鰹と共に生活してきた日本。その限りある資源を未来に受け継ぐため、世界の先頭になって鰹を守る取り組みを行っていく必要があるのではないでしょうか。
鰹の一本釣りは、本当に美味しく新鮮な鰹を食卓にお届けする方法。そして乱獲を目的としない、環境に優しい方法。「司」はこれからも、一本釣り鰹にこだわり続けてまいります。