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猫を背負った便利屋さん(二) 

公開日:2025/10/16

第二章:三つの姿、と拡がる世界

梅雨明け間近の東京は、蒸し暑さが増していた。浩介は団地の一室で、エアコンの室外機の騒音調査という地味な仕事を終え、代金を受け取った。 「クロ、帰るぞ」 両肩背负いモードにしたオレンジのバッグを背負う。肩と腰にそれぞれストラップを固定し、重量を分散。 以前のリュックよりずっと楽で、両手が自由に使えるのが何よりの利点だ。 最寄り駅まで十五分。灰色の街並みに、浩介の背中のオレンジが一つのアクセントとなっている。 両側の大きなメッシュ窓が空気を通し、中も外もお互いの様子がわかりやすい。 駅のホームは通勤ラッシュの波が押し寄せ始めていた。浩介は背中からリュックを外し、さっと前抱きモードに組み替えた。クロを胸の高さに抱える。目立つ色のおかげか、周囲の人が少し距離を取ってくれ、スペースができた。 「すみません、そのリュック、可愛い色ですね!ペット用ですか?」 隣に立っていたOL風の女性が、声をかけてきた。目立つ色が、却って好意的な関心を引き寄せた。 「…ありがとうございます。そうです」 浩介は少し照れくさそうに答えた。前抱きはスペースを取らない上に、クロも落ち着いている。
次の依頼は、小さな喫茶店からだった。店主の知り合いが引越しするので、預かっていた食器類の運び込みを手伝ってほしいという。 作業中、浩介はリュックを店のカウンター隅に手提げモードで置いた。オレンジの存在が、店内の温かい雰囲気に何だかマッチしている。 背面のネットテント部分を拡張し、クロのスペースを広げてやる。拡張された空間で、クロはのびのびと体を伸ばし、気持ちよさそうに眠り始めた。 「ご苦労様です。お飲み物はいかが?」 優しげな店主が氷水を差し入れてくれた。浩介が礼を言い、一口含む。 「そのバッグ、明るくていいですね。見ているだけで気分が上がります」 「ええ。目立つ色なので、人ごみでも彼を見失わなくて済みます。」 浩介はそう答えながら、無意識にオレンジ色のリュックの側面を軽く叩いた。中でクロが気持ちよさそうに鳴き声を立てるのが、メッシュ越しに聞こえた。 スマホが振動した。画面には、見覚えのない番号から着信が。 浩介の心臓が、少し早鐘を打った。彼はクロのいるオレンジのリュックを見た。その明るい色が、これから起こるかもしれない暗い出来事から守ってくれるような、そんな気がした。 「…出るか」 囁くようにそうつぶやくと、画面に指を滑らせた。

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