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猫を背負った便利屋さん(一)

公開日:2025/10/16 更新日:2025/10/16

第一章:雨宿りと、奇妙な依頼

ジメジメした晩秋の雨が、ビルの谷間を染めていた。佐藤浩介は、コーヒーショップの軒下でじっと空を見上げていた。 「しばらく、これかな」 彼は背中から鮮やかなオレンジ色のペットリュックを下ろした。両側面に大きなメッシュの“窓”を持つ、そのバッグは、陰鬱な雨空の下でひときわ目を引く存在だった。 浩介はリュックを手提げモードに変え、店のドアを開けた。温かい空気と、かすかなコーヒーの香りが鼻をくすぐる。 カウンターでホットコーヒーを購入し、隅の席に座る。手提げたリュックを隣の席に置く。側面のメッシュ窓から、中で眠る黒猫クロの穏やかな寝息がかすかに聞こえる。自ロック式のチャックと内蔵の脱防止クリップが、安心感を与えてくれる。 すると、一人の女性が浩介のテーブルに近づいてきた。銀縁の眼鏡が知性的な、スーツ姿のきりりとした女性だ。彼女の視線は一瞬、目立つオレンジ色のリュックの上を掠めた。 「佐藤浩介様ですか?」 女性はそう言うと、名刺も出さずに、いきなり核心に入った。 「お話があります。報酬は五十万円」 浩介の眉がわずかに動いた。通常の依頼の十倍はする金額だ。 「…どんな用件ですか」 女性は一瞬ためらい、声を潜めた。 「…“話す猫”を探してほしいのです」 浩介は一瞬、耳を疑った。隣のリュックの中では、クロが奇妙なタイミングで、「にゃん」と小さく鳴いた。メッシュ越しに、黒い影が動くのが見えた。 ただの悪戯だろうか?それとも… 浩介はコーヒーカップを手に取り、温もりを感じながら、ゆっくりと答えた。 「詳細を聞かせてください」 窓の外では、冷たい雨が、これから始まる非日常の幕開けを告げるように、降り続いていた。

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