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【獣医師が解説】ペットの病気編: テーマ「高齢ペットの貧血」

公開日:2026/02/18 更新日:2026/03/03
「本町獣医科サポート」の獣医師 北島 崇です。 みなさんは、貧血=鉄分不足というイメージをもっていませんか。もちろん間違いではありませんが、今回は「炎症が貧血を招く」という話をしましょう。

動物の血液量

貧血とは体内の血液量が正常値を下回った状態をいいます。貧血の話の前に、まずはヒトを含めた動物の血液量について確認する必要があります。 【からだの血液量】 からだの中のすべての水分量は体重の60%です。血液もこの水分に含まれていて、体重のおよそ8%を占めています。体重60㎏の成人の血液量はおよそ5㎏≒5Lということになります。 家畜やペットなど、動物の標準的な血液量(体重比%)は次のようになります。 ○家畜 …ウシ(5.7%)、ブタ(6.5%)、ニワトリ(6.0%) ○実験動物 …マウス(7.9%)、ラット(6.4%)、サル(5.4%) ○ペット …イヌ(8.0%)、ネコ(5.5%) 動物の種類によって差はありますが、だいたい体重の6~8%といったところです。イヌはヒトと同じく体重比8%ですので、体重2~3㎏の小型犬の場合、その血液量はおよそ200mL≒コップ1杯ということになります。
【失血量】 やや物騒な話ですが、ヒトは全血液量の30%を失うと危険な状態、そして50%を超えると失血死するといわれています。 ペットにおいても同様と考えると、先ほどの小型犬では50~60mLほどの出血量で危篤状態になってしまいます。

いろいろな貧血

では、そろそろ貧血について話をしましょう。貧血は血液の量も大切ですが血液の中身、すなわち赤血球の数やヘモグロビンの量もポイントになります。 【貧血の診断基準】 ペットの貧血診断における検査項目は、私たちヒトと同じく次の3つです。 ①RBC:赤血球数の減少 RBC(red blood cell)とは血液1μL中の赤血球数のことです。 ②Hb:ヘモグロビン濃度の低下 Hb(hemoglobin)は血液1dL中のヘモグロビンのg数をいいます。 ③PCV:血球容積の低下 PCV(packed cell volume)とは、血液に占める赤血球の割合を%で表したものです。ヘマトクリット値ともいいます。 この中で最もわかりやすいのがRBC(赤血球数)でしょう。イヌおよびネコの赤血球数の標準値はそれぞれ550万~850万、500万~1,000万です。 動物病院では、ペットたちの元気・食欲の低下、目・口の粘膜の蒼白などの症状を確認して、血液検査の数値がこれら基準値を下回った場合に貧血と診断します。
【貧血の発生】 貧血は血液量、または赤血球の数が減少した状態ともいえます。これより、貧血の発生には大きく次の3パターンがあります。 ①出血 これは血管から血液が漏れ出ることによって、体内の血液量が減少するも のです。大きなケガや、高齢ペットでよく見られる消化管内への持続的な 出血がこれに該当します。 ②造血障害 赤血球は背骨や大腿骨など、太くて大きい骨の中心部にある骨髄で造られます。造血に必要な栄養成分(タンパク質、鉄分、ビタミン)の不足の他、造血促進ホルモンを分泌する腎臓疾患も関与します。   ③溶血 赤血球が過剰に壊れる場合も酸素の運搬ができなくなり貧血となります。 イヌに与えてはいけない物の代表であるタマネギ(タマネギ中毒)やバベ シア症(寄生虫)、自己免疫疾患ではこの溶血性貧血が起こります。

高齢者の貧血

みなさんは「老人性貧血」とか「高齢者貧血」ということばを聞いたことはありますか? 【高齢者貧血】 高齢者貧血とは、高齢者(ヒト)で加齢を背景として高い頻度で認められる貧血のことです。福島県立会津総合病院の大田雅嗣は60歳以上の貧血入院患者1,053人を対象にして、その背景の疾患を調査しています(2011年)。 結果として最も多かったものは悪性腫瘍(28.3%)、次いで感染症(15.1%)、消化管出血(7.8%)、そして腎臓疾患(6.2%)、血液疾患(5.3%)となっています。 これらの疾患の中には、悪性腫瘍(がん)や感染症といった貧血とは直接の関係が無いように思えるものが含まれています。これはなぜでしょうか?
【慢性炎症による貧血】 高齢者では慢性的な炎症を伴う疾患が発生しやすいものです。旭川医科大学の高後 裕らは、次のような慢性炎症を背景とする貧血を「炎症性貧血」として報告しています(2005年)。 ●慢性感染症  …膿瘍(化膿)、肺炎、慢性尿路感染症 など ●非感染性の慢性炎症  …重症外傷、関節リュウマチ など ●悪性腫瘍  …がん、白血病 など 先ほどの高齢者貧血調査であがっていた第1位:悪性腫瘍、第2位:感染症がしっかりと含まれています。どうやら「炎症」は貧血と深い関係があるようです。 【鉄調節ホルモン:ヘプシジン】 体内では鉄分は一定量に維持されています。不足する時は、肝臓の貯蔵鉄で補充され、過剰な場合は同じく肝臓から分泌される鉄調節ホルモンのはたらきによって体内の鉄量を減少させています。 このホルモンは「ヘプシジン」と呼ばれます。鉄調節ホルモン:ヘプシジンが鉄の量を下げるしくみは次の2つです。 ①鉄の吸収抑制(小腸) →食材に由来する鉄分の吸収を抑える ②鉄の放出抑制(脾臓) →脾臓で回収された鉄を骨髄へ放出・提供するのを抑える このように体内の鉄量を正しく維持調整するホルモンがヘプシジンですが、もう1つからだの中で炎症が起きた場合にも分泌されます。慢性的な炎症を原因として発生する貧血が炎症性貧血です。 高齢者の貧血患者調査において悪性腫瘍(がん)や感染症の割合が高かったのは、慢性炎症によって分泌された鉄調節ホルモン:ヘプシジンの作用があったわけです。

高齢ペットの貧血

高齢ペットの慢性的な炎症を伴う疾患として、腎不全と関節炎があります。すこしおさらいをしましょう。 【腎臓疾患と貧血】 腎臓は血液のろ過フィルターのしごとをしていますが、老化にともなってフィルター役の毛細血管が目詰まりを起こしてきます。これが腎不全でした。この目詰まりの背景には、血管壁の硬化と血管の炎症がありました。 腎臓は尿を生成する臓器ですが、エリスロポエチンという造血を促進するホルモンも産生しています。腎不全になるとこの造血ホルモンの分泌も低下するため、合併症として貧血が起こります。これを「腎性貧血」と呼びます。 腎性貧血は慢性腎不全のステージが上がるのに伴って増加してゆきます。ヒトもペットもステージⅢ以降で発生することが多いようです。腎性貧血の発生率はイヌ(4~70%)、ネコ(32~65%)という報告があります(宮川優一 日本獣医生命科学大学 2018年)。 【関節炎と貧血】 高齢ペットの関節の痛みは、肥満や関節軟骨の劣化によるものです。関節に痛みを感じると運動自体を嫌うようになります。この結果、代謝エネルギーは減少するために体重が増加してゆき、さらに関節への負荷増大という悪循環が起きてしまいます。 高齢ペットでは腎不全や関節炎の他にも、椎間板ヘルニアなどさまざまな慢性的な痛みと炎症を伴う疾患が起こりやすくなります。すなわち、加齢による炎症性貧血のリスクが高まるということです。
【高齢ペットの貧血対策】 最後に栄養面から高齢ペットの貧血ケアを考えましょう。まずは、骨髄での造血活動を応援するための材料です。最も大切なものはタンパク質と鉄分です。 ペットフードのタンパク源としては肉類が基本です。中でも馬肉や鹿肉は脂肪分が少ない良質な赤身肉であり、加えて鉄分の含有量も高く貧血ケアとしては有用なタンパク源といえます。 次は体内の鉄の量を減少させる鉄調節ホルモン:ヘプシジン対策です。ヘプシジンは慢性の炎症が引き金となって肝臓から分泌されますから、なんとかして炎症を和らげたいものです。 炎症を抑えるはたらきをもつ栄養素の1つにオメガ3脂肪酸がありました。EPAやDHAは魚粉や魚油の中に豊富に含まれていて、関節の機能応援として広く知られています オメガ3脂肪酸は抗炎症作用の他に、血液のサラサラ度の改善や血管を柔らかく保つ作用(柔軟性)も報告されています。加齢によりトラブルを抱えた腎臓の健康応援にオメガ3脂肪酸を活用するという提案が広まっています。 このように、赤身の肉やオメガ3脂肪酸(EPA、DHA)は、高齢ペットの貧血対策として有用な栄養成分と考えられます。
イヌやネコにおいて「高齢者貧血」に相当することばはまだありません。しかし、ヒトと同様にペットも寿命が延びており、今後は「高齢ペット貧血」に関する研究も進んでくるでしょう。 私たちオーナーは、ペット年齢7歳を1つの目安とする腎臓/関節ケアを通して、その後の高齢ペット貧血に備えたいものです。

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